散歩友だちのクルミ(ポメラニアン)が12歳になった年から、夜明けごとに鳴き始めました。クルミの飼い主さんは何か月も眠れずに持ちこたえて、「この子がなぜこうなのか分からない」と涙を見せました。病院へ行って、やっと分かったんです。あの鳴き声は駄々ではなく、症状だったということをです。同じ夜を過ごしていらっしゃる方たちのために整理します。
シニア犬の夜の鳴きは認知機能不全(通称 認知症)、痛み、感覚の低下、不安の4つのどれかのケースがほとんどです。昼と夜が入れ替わって壁を見て立っているなら認知機能不全を、姿勢を変えるたびにクンクン鳴くなら関節の痛みを、暗くなった後にやけにひどいなら視力と聴力の低下を疑ってください。急に始まった夜の鳴きは、トレーニングの問題ではなく診療の対象です。叱るのは、どんな場合でも答えではありません。
鳴き声だけでは原因は分かりにくいですが、一緒に現れる行動を見れば方向が決まります。下の表で、うちの子と重なる行を探してみてください。
| 疑う原因 | 一緒に見える姿 | 確認してみること |
|---|---|---|
| 認知機能不全 | 昼に眠って夜に起きて徘徊、壁や隅を見て立っている、トイレの失敗の増加、家族が分からない瞬間 | 昼夜の逆転の有無、ここ数か月の行動の変化 |
| 痛み | 起きたり寝転ぶ瞬間にクンクン、特定の部位をなめる、階段の回避、触ると避ける | 姿勢を変えるとき鳴くか、歩き方の変化 |
| 感覚の低下 | 暗くなった後の不安の増加、小さな音に驚く、壁にぶつかる | 明るいときは大丈夫か、呼ぶと反応するか |
| 不安と寂しさ | 飼い主が部屋に入るとやむ、ドアの前で鳴く | 一緒にいると止まるか |
| 体の疾患 | 水をたくさん飲む、夜中のおしっこの要求、食欲の変化 | 飲水量とおしっこの回数の変化 |
※原因はひとつではなく、重なっているケースが多いです。関節の痛みが夜の不安を育てる、という具合にです。
クルミは、認知機能不全の初期の診断を受けました。薬とサプリ、生活の管理を始めて2か月ほど後から、夜明けの鳴きが目に見えて減りました。早く行っていたらもっと早く楽になっていたはずと、クルミの飼い主さんは今も言います。
まず、夜を準備させる昼を作ってあげてください。午前の日ざしの散歩と昼のノーズワークは、昼夜のリズムを戻すのに薬と同じくらい重要です。夜は眠る前にトイレをさせて、寝床はすきま風のない場所に厚めに、通り道にはほのかな照明を付けておいてください。鳴く瞬間には明かりをぱっと付けたり大きな声を出さず、低い声で短く安心させた後、また寝かせるのを繰り返してくださいね。そして、お願いしたいのはひとつです。叱らないでください。今あの子は、飼い主さんを困らせているのではなく、老いていく体で初めて経験する夜を、持ちこたえている最中ですから。うちのグルム(「雲」という意味の名前です)も見知らぬ家で眠る夜はクンクン鳴く子なので、クルミの家の使ったほのかな照明の方法を、旅行のときそのまま借りて使っています。
診療のときいちばん役立つのは、鳴く夜に撮っておいた1分の動画です。クンクンに上げておけば投稿ごとに日付が残って、いつからどんな姿だったのか、病院でそのまま見せられます。言葉で説明できない症状ほど、動画が力を発揮します。
うちの子の動画を残す →何か月も夜明けに起きる生活は、ひとりで受け止めることではありません。家族がいれば曜日を分けて、ひとりなら昼寝ででも睡眠を補ってください。飼い主さんが崩れると、看病の全体が崩れます。
認知機能不全には進行を遅らせる薬とサプリがあって、痛みにはシニア犬も使える鎮痛の管理があって、不安がひどければ眠りを助ける処方も可能です。夜の鳴きは、我慢して持ちこたえること以外にも、選択肢のある問題です。
マンションなら、短く了解をもらっておくと心が楽です。あの子が病気で治療中だというひと言で、ほとんど理解してくださいます。苦情の心配で毎晩ひやひやするより、ずっと良いです。
当てのない夜明けを持ちこたえるのは、本当に骨の折れることです。それでも原因を見つければ、夜は必ず今より楽になります。そしてこの夜たちを一緒に持ちこたえること自体が、あの子が一生、飼い主さんにくれた物たちへの、いちばん深いお返しのはずです。
この記事は一般的な情報であり、獣医学的な診断に代わるものではありません。愛犬の状態は動物病院にご相談ください。